いくつかある戦前の伝記の中でも特にお薦めなのがこの2冊。水野広徳、桜井真清ら同郷の関係者らが編纂した”公式本”とも言えるものです。「本邦騎兵用法論」「連合艦隊解散の辞」といった文章資料の原文、秋山兄弟の写真、豊富なエピソード集など、彼らの存在をより身近に感じることができる資料が数多く掲載されています。秋山兄弟の生涯や、真之と子規の交流をさらに詳しく知りたいという人にとっては第一級資料と言っても過言ではありません。
古書市場での入手は困難ですが、2009年にはマツノ書店から完全復刊されました。その際、販促パンフに推薦文を寄稿させていただいたので、この両書に対する私の思いはそちらを見て頂くこととして、ここでは簡単な内容紹介にとどめておきます。
出版年:昭和11年 | 編集、発行:秋山好古大将伝記刊行会 | 評価:★★★★★
○主な内容
第一章 秋山家について、幼少時代から教員時代まで
第二章 陸軍士官学校入学、フランス留学、結婚、日清戦争
第三章 陸軍乗馬学校長、清国駐屯、シベリア出張
第四章 日露戦争勃発から黒溝台会戦まで
第五章 奉天会戦、凱旋、陣中に於ける好古
第六章 騎兵監から陸軍大将昇進、陸軍退役まで
第七章 校長就任、校長時代
第八章 好古の思想や主義、軍人たちとの交友など
第九章 好古の趣味、家庭での好古、銅像など
第十章 逸話集
別記 本邦騎兵用法論、騎砲に関する意見、校長時代の訓話など
写真 若い頃から晩年までの肖像、家族との写真、従軍中の写真など
出版年:昭和8年 | 著者:櫻井眞清 | 出版:秋山眞之会 | 評価:★★★★★
○主な内容
幼少年編 家族のこと、少年時代、絵心と歌心
青年編 子規との交流、大学予備門時代、兵学校時代
壮年編 日清戦争出征、アメリカ留学、大学教官時代
活躍編(上) 日露戦争時代総説、参謀就任、島村と真之
活躍編(中) 開戦から黄海海戦、旅順視察まで
活躍編(下) 日本海海戦、手簡や戦況報告文
晩年編 シーメンス事件、第一次世界大戦と欧州出張
兵学編 海国戦略論、軍紀論、戦争不滅論など
人物編 真之と家族、真之と宗教、その他の逸話
追憶編 虚子、碧悟桐、松岡洋右らによる追憶文、島村速雄による追悼講演
写真 若い頃から晩年までの肖像、直筆の文章やノート、出征中の写真など
出版年:昭和9年 | 著者:山中峯太郎 | 出版:新潮社 | 評価:★★☆☆☆
タイトル通りの伝記小説。前掲の伝記「秋山好古」編纂のために集められた資料からの抜粋版であるため、内容はほぼ同じです。大きな違いは幼少期、師範学校時代のエピソードがかなり詳しく書かれているところですが、あくまでも伝記゛小説゛なので、創作部分も多いように感じられます。
出版年:昭和9年 | 編集:秋山眞之会 | 出版:岩波書店 | 評価:★★★☆☆
内容は「秋山真之」とほぼ同じ。「秋山真之」を一般向けに書き改めたものなので比較的読みやすくなっています。写真や文章が少なくなっている分、少し物足りないような気もしますが。
出版年:昭和6年 | 著者:松田秀太郎 | 出版:向井書店 | 評価:★★★★☆
地元松山で出版された伝記。主に真之ゆかりの人々から集めた追憶談で構成されています。主に関係者の回顧談で構成されており、伝記というより追悼集のようなものです。特に興味深いのが、真之と交流のあった人々から見た真之評を集めた「秋山真之を斯く見る」。また、加藤拓川の回顧談など、伝記「秋山真之」にはない貴重な証言も掲載されています。
出版年:昭和18年 | 著者:大和杢衛 | 出版:紙硯社 | 評価:★☆☆☆☆
単なる伝記小説。内容的には岩波の「提督 秋山眞之」と似たような物。写真も無く、特別面白いエピソードも無く、他の資料を見ていれば読む必要は無いと思います。戦時中に書かれた物らしく、真珠湾攻撃の描写から始まっているのが唯一興味深いところです。