「発信原稿 満洲軍参謀部諜報部」
学習院大学文学部史学科2年 長谷川怜
木植公司
木植公司という名前を耳にしたことのある人は少ないのではないだろうか。今回は、この耳慣れない単語についての解説から入りたい。
朝鮮半島と満州を区分して流れる鴨緑江 [1]および朝鮮と清の国境に聳える長白山 [2]には広大な樹林があり、ロシアはここに「木植公司」という木材会社を設立していた。極東経営の資金源とするためである。
日露戦争中、ロシア側が木材から得た資金を軍事目的に転用する事を警戒した満洲軍は可能な限り木材の徴発を行ったのである。
明治三十七年七月四日前十一時十分
在安東縣大原大尉ヘ 福島少将
木植公司ニ属スル木材及筏ノ疑ハシキ者ハ皆我ニ没収ス可シ
この木植公司の利権は、日露戦争後日本と清国が合弁で経営するようになり、南満洲鉄道・撫順炭鉱と共に「日本の三大利権」[3]と称された
。
戦後、利権を獲得する事を見越していたのだろうか、以下の様な電文の存在は興味深い。日本が大陸経営に関して、日露戦争中からかなり具体的な計画を立てていたことがうかがい知れよう。こうした電文の存在を知ると、関東都督府が創設された時、福島少将が初代の都督に選抜されたのも当然の様に思われる。
明治三十七年七月十五日
参謀総長 総参謀長
鴨緑江上流ノ木材ハ将来ノ一富源ナリ今日ノ場合ニ於テ露国ノ得タル権利ニ代リ我国一手ニテ此富源ヲ占有スルコト必要ナリ時機ヲ失スル時ハ他ノ妨害ヲ受ルコトアルヲ恐ル故ニ別ニ政府ヨリ主任者ヲ派遣シ速ニ処置ヲ取ランコトヲ望ム
1 北朝鮮からの亡命者が泳いで渡る川として最近は有名である
2 金日成が産まれたとされる「聖地」
3 菅野直樹「鴨緑江沿岸森林利権問題と日本陸軍」(軍事史学会編『日露戦争(一)―国際的文脈―』錦正社、二〇〇四年)