○戦術とは何か
兵術の一科であり、主に戦闘に於いて軍隊を指揮運用して敵と戦う技術、簡単に言えば「戦闘術」を意味する。戦術は兵力の多寡、戦地の広狭、戦時の長短、用いる兵器などに応じて様々な種類がある。
○基本戦術と応用戦術
艦隊の編成、隊形、運用法、戦法など、有形的要素に基づいて有形的方術を研究するものが「基本戦術」であり、その基本戦術をどのようにして実戦に応用すべきかを研究する無形的心術が「応用戦術」である。(※1)
※1 : | 「基本戦術」が一般的な「戦術」、「応用戦術」は内容的に「戦略」の部類に入る。 |
○戦術の研究
理想に馳せて一生用いることのない突飛な大戦術を講究する必要はないが、事物の発達や進歩に伴い間断なく戦術の改良研究に努めなければならない。その講究方法は「温故知新」の教法による。これを列記すれば下記の通りになる。
戦術は戦闘力を適切に運用して敵と戦う技術である。戦闘力は諸種の要素によって構成され、攻撃力、防御力、運動力、通信力の4つに分類することができる。さらに、この4つの要素にはそれぞれ有形的要素(機力 : 兵器や機関) と 無形的要素(術力 : 有形的要素の運用法)が内在している。
○戦闘力の分類
・攻撃力
機力:砲熕、水雷、衝角
術力:砲術、水雷術、衝突術
・防御力
機力:装甲、防水区画、防火防水機関
術力:戦闘準備、防火防水部署その他防御機関の用法
・運動力
機力:推進機関、操舵機関
術力:運用術、機関術
・通信力
機力:信号機、無線電信機、艦内通信機
術力:信号術、電信術、その他通信技術
○攻撃力
○防御力
○運動力
○通信力
「兵理」は兵戦に於いて勝敗を支配する恒久不変の自然原理である。一言で言うと「優勝劣敗」。一方、「兵術」は兵理を兵戦に応用して戦う術。その戦略、戦術を問わず、同一不変の兵理に基づいて時と場合に応じて千変万化する。
兵戦の三大元素は「時」「地」「力」である。「優勝劣敗」が兵理の原則であるが、「優劣」は単に「力」の優劣だけで決まるものではなく、「地」と「時」の価値も考慮しなければならない。この三要素を計量的に表すと下記のようになる。
時(時象) : 長短、明暗、寒暑、晴陰
地(地形) : 広狭、水陸、険易、高低、深浅、闊隘
力(戦闘力) : 大小、集散、動静
「時」「地」「力」の三素を利用して争闘することを「兵戦」という。そのため、例えば兵力が足りない場合は地の利でこれを補うなど、この三素の調和均衡を得ることが兵術の要旨である。(※2)
この三素はいずれも兵戦に欠かすことのできない物であるが、特に重要なのが「力」であり、「地」「時」がこれに次ぐ。兵力は人為的に増大させることが容易であるが、地形を変化させる事は至難であり、時象を変化させることは不可能である。また、「力」が多大であれば「地」と「時」の不利を排除することもできる。孟子が「天の時は地の利に如かず、地の利は人の和に如かず(天の時
< 地の利 < 人の和)」と述べているのも、このような理由からである。(※3)
※2 : | 真之は「海国戦略論」の中で「戦略は戦闘の地、戦闘の時、戦闘の兵力を定めるものである」と定義している。 |
※3 : | フランスの軍人アンドレ・ボーフルは、著書の中で戦略を下記のような公式であらわした。 S=KFψt (S:戦略 、 K:状況に応じた特定の係数 、 F:物質的要素 、 ψ:心理的要素 、 t:時間的要素) 真之の戦術体系を同様の公式としてあらわすと、下記のようになると思われる。 S=FψGt (S:戦略 F:機力 ψ:術力 (F×ψ=戦闘力) G:地形 t:時象) |
「力の状態」には、「集散」の二状と「動静」の二態がある。人類は自らその力量を保有せず、自然に存在する力を利用しているだけである。そのため、力の用法の要旨は自然の状態を変化させることである。つまり、目的に応じて力の集散動静を調整し、敵に対して自らの衝力抗力を優大させることである。本来無い力を出現させることは人為的には出来ない。
また、優大な力量を有していても、これを活用する方法(前述した術力)を知らなければその成果は少ない。逆に与えられた力量が少なくても、それを巧妙に活用できれば大きな効果を得ることができる。