昭和十年(一九三五年)は日露戦争三十周年であり、新聞社が様々な企画記事を紙面連載していました。東京日日新聞・大阪毎日新聞(現在の毎日新聞)は日露戦争に従軍した陸海軍の将校を二十人ずつ集めて大座談会を開催。その速記録は単行本『参戦二十将星 日露大戦を語る』、『参戦二十提督 日露大海戦を語る』として刊行されています。また、朝日新聞社も同様に座談会を開催し、単行本『名将回顧 日露大戦秘史 陸戦編』、『名将回顧 日露大戦秘史 海戦編』を刊行しました。
藤井茂太、田中国重、永沼秀文、森山慶三郎、佐藤鉄太郎、小笠原長生など『坂の上の雲』登場の他、荒木貞夫、渡辺錠太郎、松井石根、杉山元など昭和陸軍の著名人も出席しているこの座談会では、開戦までの経緯、戦場での苦心談・裏話、司令官らの人物像などが語られています。旅順に於ける児玉源太郎の言動など、「坂の上の雲」本編で紹介されている日露戦争中のエピソードの多くはこの座談会が出典元であると思われます。
2010年10月20日発売の文藝春秋臨時増刊『「坂の上の雲」 日本人の奇跡』で担当した企画記事「司馬さんが書かなかった 将軍・提督とっておきエピソード」ではこの4冊から興味深い記事を選び抜いてたコラムを担当させて頂きました。興味のある方はぜひご一読ください。
市場価格は1冊あたり1000円〜3000円程度です。4冊それぞれに特徴があるので、余力があれば全部購入して読み比べることをお勧めします。
書名 |
参戦二十将星 日露大戦を語る |
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出版 |
東京日日新聞、大阪毎日新聞 |
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出版年 |
昭和10年 |
書名 |
参戦二十提督 日露大海戦を語る |
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出版 |
東京日日新聞、大阪毎日新聞 |
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出版年 |
昭和10年 |
書名 |
名将回顧 日露大戦秘史 陸戦編 |
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出版 |
朝日新聞 |
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出版年 |
昭和10年 |
書名 |
名将回顧 日露大戦秘史 海戦編 |
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出版 |
朝日新聞 |
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出版年 |
昭和10年 |
− 出席者と日露戦争当時の役職 −
日露大戦を語る 菱刈隆(第一軍参謀) 荒木貞夫(梅沢旅団副官) 松井石根(第二軍兵站副官、第二軍参謀) 鈴木荘六(第二軍参謀) 奈良武次(独立重砲旅団司令部員) 町田経宇(第四軍参謀) 尾野実信(満州軍参謀) 田中国重(満州軍参謀) 大島健一(兵站総監部参謀長) 堀内文次郎(大本営高級副官) 国司伍七(満州軍参謀) 渡辺壽(満州軍参謀) 藤井茂太(第一軍参謀長) 引田乾作(第一軍参謀) 稲垣三郎(満州軍参謀) 志岐守治(後備歩兵第五十七連隊大隊長) 橋本勝太郎(後備第一師団参謀長) 永沼秀文(第一軍挺身隊長) 坂西利八郎(直隷総督袁世凱応聘武官) 山内保次(秋山支隊副官) 日疋信亮(二等主計正、満州軍倉庫長) 関屋貞三郎(児玉台湾総督秘書官) |
日露大海戦を語る 飯田久恒(第一艦隊参謀) 本田親民(第三閉塞隊五番船遠江丸指揮官) 千坂智次郎(初瀬航海長、佐世保鎮守府参謀) 小笠原長生(大本営幕僚) 川島令次郎(松島艦長、磐手艦長) 上泉徳弥(大本営幕僚) 吉田孟子(東雲艦長) 竹下勇(米国駐在武官) 山路一善(第一艦隊参謀) 山屋他人(秋津州艦長、笠置艦長、第四艦隊参謀長) 山本信次郎(三笠分隊長) 近藤常松(漣艦長、十五艇隊司令兼雲雀艇長) 寺垣猪三(敷島艦長) 安保清種(三笠砲術長) 有馬良橘(連合艦隊参謀、大本営付、音羽艦長) 佐藤鉄太郎(第二艦隊参謀) 斎藤半六(雷艦長) 百武三郎(日進水雷長兼分隊長、第三艦隊参謀) 森山慶三郎(第二艦隊瓜生戦隊参謀) 斎藤実(海軍次官兼軍務局長) ※斎藤実は座談会は病気欠席のため、自宅取材。 |
日露大戦秘史(陸戦編) 荒木貞夫(梅沢旅団副官) 尾野実信(満州軍参謀) 志岐守治(後備歩兵第五十七連隊大隊長) 鈴木荘六(第二軍参謀) 奈良武次(独立重砲旅団司令部員) 菱刈隆(第一軍参謀) 町田経宇(第四軍参謀) 和田亀治(第一師団参謀) 井上幾太郎(第三軍参謀) 大島健一(兵站総監部参謀長) 杉山元(第十二師団所属中隊長) 田中国重(満州軍参謀) 藤井茂太(第一軍参謀長) 坂西利八郎(直隷総督袁世凱応聘武官) 渡辺錠太郎(歩兵第三十六中隊長) |
日露大戦秘史(海戦編) 有馬良橘(連合艦隊参謀、大本営付、音羽艦長) 安保清種(三笠砲術長) 飯田久恒(第一艦隊参謀) 小笠原長生(大本営幕僚) 斎藤実(海軍次官兼軍務局長) 斎藤半六(雷艦長) 竹下勇(米国駐在武官) 佐藤鉄太郎(第二艦隊参謀) 匝瑳胤次(第三閉塞隊三河丸指揮官) 竹下勇(米国駐在武官) 百武三郎(日進水雷長兼分隊長、第三艦隊参謀) 森山慶三郎(第二艦隊瓜生戦隊参謀) 山路一善(第一艦隊参謀) 山本信次郎(三笠分隊長) |
『参戦二十将星 日露大戦を語る』、『参戦二十提督 日露大海戦を語る』(以下、「毎日新聞版」)と『名将回顧 日露大戦秘史 陸戦編』、『名将回顧 日露大戦秘史 海戦編』(以下、「朝日新聞版」)それぞれの特徴を簡単に紹介します。
まず分量ですが、朝日新聞版に比べると毎日新聞版の方が参加人数、ページ数が多く、コラムも掲載されているので読みごたえがあります。『参戦二十提督 日露大海戦を語る』は巻末に「ロシア側から観た日露大海戦」という付録記事もあり、ロシア側が行った広瀬武夫の葬儀を記したペ・ラレンコの日誌もここに収録されています。
次に座談会で語られている内容についてですが、共通の参加者が居ることもあって似たようなものが大半です(安保清種は単に原稿を読んでいたのではないかと思うほど、一字一句同じです)。朝日新聞版の方が、司令官個人のエピソードが多めになっています。