書名 |
[証言録]海軍反省会 |
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監修 |
戸高一成 |
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出版 |
PHP研究所 |
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巻数 |
全11巻 |
昭和55年3月から12年にわたり水交会で極秘開催されていた「海軍反省会」。近年になってこの座談会の発言を記録したテープが見つかり、2009年8月にNHKスペシャル「日本海軍 400時間の証言」として放映されました。日本海軍中堅幹部の戦争認識、海戦前後の組織的な問題点などが分かる興味深い内容です。
参加者は太平洋戦争当時の大本営参謀、艦隊司令官、艦隊参謀といった中堅幹部から、分隊長など若手将校など二十数名。「坂の上の雲」で砲術について語っている黛治夫氏(利根艦長)も参加しています。
本書はその発言テープを文字に起こしたもので、当初は第一回〜十回までを収録した一冊だけが出版されました。しかし反響が大きく、ほぼ年1冊のペースで約130回に及ぶ反省会の全記録を公刊されていきました。
当初は1冊4000円(税抜き)、途中から値上がりして5000円になり最終巻は9200円。トータル5万円以上の出費となりました。こうなることは想定していましたが、でも続きが気になるし、毎年4000円の出費であればそれほど痛手ではないと思い(一括払いとなると家計的に無理ですが)、とりあえず全部揃えてみようと続けていました。3巻目以降は仕事などで忙しくなってほとんど読めていませんが・・・。
11巻には全巻の総索引が収録されています。秋山真之は6巻、8巻以外に全て登場。まずは「坂の上の雲」登場人物に絞って拾い読みをしてみようと思っています。
もともと太平洋戦争史にも興味があって読み始めた資料ですが、所々に秋山真之などの明治軍人が登場するほか、「坂の上の雲」「司馬遼太郎」というキーワードも出てくるので、「坂の上の雲」関連資料(人物エピソードのネタ本)の一つとして扱っています。
ここでは現在手元にある1巻、2巻から興味深い箇所を抜き出して紹介していきます。
加藤寛治のエピソードでも紹介しているように、昭和期の軍人との比較対象として真之が何度か登場しています。例えば素っ裸で部屋にこもって作戦を練るなど真之を真似たとも言われる奇人ぶりだった日米開戦時の連合艦隊主席参謀
黒島亀人については「秋山さんのようなオリジナリティを持った男ではない」(2巻、第十七回)との発言や、「世界的な視野を持った秋山真之のような人と、黒島さんのようなどちらかというと馬車馬的な人が連合艦隊の作戦を遂行しようとしたところにも問題がある」(2巻、第十八回)と証言している人がいます。また他の連合艦隊幕僚についても「こういうふうにやれという事を瞬時にやりますけど、一貫して、秋山真之のように哲学的に物事を掘り下げるというのはない」(2巻、第十八回)との発言もあります。「小柳資料」でも、真之から学んだことが多かったと語る軍人が多いことから、昭和期の軍人たちにとって「秋山真之」は特別な存在だったようです。
反省会の中では「司馬遼太郎が言うには・・・」というように、司馬さんの人物評や作品中の一文を引き合いに出して語っているところが、1巻、2巻でそれぞれ2〜3個所ずつあります。反省会開催が「坂の上の雲」連載終了後だったこともあり、「この所見を述べるに当たり、司馬遼太郎の「坂の上の雲」を、また今度もういっぺん読み直して」と発言する人もいました。特に興味深いのが「数日前に司馬遼太郎の「歴史の国日本」という本を読んだんですが、その中に「日露戦史」という参謀本部で編纂した膨大な本があると。(中略)参謀本部が書いた日露戦史を司馬遼太郎はボロクソに書いとるんですが、我々はこうやって反省の本をもし出すならばですな、そういうことを言われないように、やはり謙虚に海軍の失敗を失敗として認めてですね、・・・(以下省略)」(1巻、第十回)という発言。この反省会の全記録を司馬さんが見たら、一体どんな感想を述べたのでしょうか。