ギャングを挫く

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 いつの渡欧の事だったか、彼地のギャングの手に乗って詐欺賭博にかかったことがあった。
 初めは流石に頭の鋭い将軍も、異国の事情に通じない悲しさに、相手が詐欺師とは気がつかないから、巧妙な誘いの手に乗って、うかうか賭博に手を出した。
 仲間同志牒し合わせての髀の切り方に怪しいトリックが潜んでいるとも知らず、勝負を続けて行くうちに、敗また敗、うち続く敗戦に負けじ魂の将軍は遂い興奮して金の続く限り次から次と勝負を続けていった。
 が、根が鋭敏な頭の将軍のことである。いつまでもそれが詐欺賭博であることに気づかぬはずがない。しかし気づいた時はすでに遅かった。ポケットは愚か旅費としてカバンに入れて来た巨額の金まですっかり捲き上げられていた。
 金なしでこの先どう旅を続けたらよいのか?
 悪酒からの醒め際のようにその悩みにぶつかると同時に、ギャングの悪辣(あくらつ)に対して極度の憤怒を感じた。
「おい君、ちょっと話しがある。来てくれ」
 賭博が終わってから、ギャングの頭領をそっと一室に連れ込んだ。連れ込んだなり将軍は手早く鍵を探ってカチンとドアの錠をおろした。
「馬鹿な、知らないと思っているか!さっきから気がついていたのだが、やるだけやらせて黙って見ていたのだ。当たり前の定法通りの賭博だったから卑怯な文句は言わないが、欺されて帰国の金まで捲き上げられたとあっては秋山一生の名折れだ。金は返してもらおう、秋山の命にかけても!」
 そういう将軍の手には閃々たる一挺の小刀が握られていた、そして今にも突きかかりそうに、あの鷲のような眼で睨まれて見ると、ギャングも固より金よりは命が大事だ。将軍から欺して取った金を手もなく耳を揃えてそこへ出した。
 一説にはこの話は船中での出来事だともいわれているが、いずれにしても機智と剛胆さを持つものでなければ出来ない芸当である。

 悪辣 : 情け容赦なく、あくどいこと。